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 日本似顔絵師協会は、2012年5月に発足いたしました。
 この団体は、全国の似顔絵師、イラストレーター、画家、漫画家、版画家などの美術品著作者団体で、似顔絵の著作権管理事業、似顔絵に関する肖像パブリシティ権の管理事業、似顔絵や肖像画に関する展覧会や似顔絵コンテストの開催、似顔絵師の教育と育成、似顔絵の勉強会や講演会、講習会の実施、その他の各種似顔絵イベントの開催結婚式場、ショッピングセンター、デパートなどに会員似顔絵師の派遣を行っていきます。
 ところで、日本の似顔絵は、江戸時代の浮世絵で、役者絵のうち、特に役者の個性をとらえて描かれたものが「似顔絵」と呼ばれました。浮世絵中期に一筆斎文調や勝川春章によって、役者の特徴をとらえて強調した浮世絵が多く描かれるようになり、これらが「似顔絵」と呼ばれるようになったといわれています。
 この時代、似顔絵を得意とした絵師には、勝川春好、勝川春英、鳥居清長、東洲斎写楽、歌川豊国などがいて、多くのすばらしい役者似顔絵が描かれました。とくに東洲斎写楽の似顔絵は圧巻で、今の時代の我々までも魅了します。
 現代では、浮世絵に限らず、様々な画材で人物の顔の特徴をとらえて描いた絵が似顔絵と呼ばれるようになり、結婚式のウェルカムボードやサンクスボード、名刺などに似顔絵が使われています。また、席描きと呼ばれて、いわゆる似顔絵師が街頭やイベント会場で対面で似顔絵を描いています。似顔絵は私達の身近なところで人の心を和ませているのです。
 これは、江戸時代の役者似顔絵が、富裕層や一部の愛好家の為の著作物としてではなく、好きな人物の写真やプロマイド・ポスターがわりの身近な存在でもあったことと同様に、時代は変化しても絵で人を楽しませたり、和ませたりする庶民文化という点で変わりはありません。
 似顔絵は人を的確に、そして個性的に表現し、また或る時は人の心までも表現します。似顔絵は絵を通して、優しさ、微笑ましさ、明るさ等、様々な人柄を表現する極めて優れた技能だからです。今後も似顔絵は、様々なシーンで我々の身近な存在として生き続けていくことでしょう。
 ところで似顔絵はもちろん日本だけのものではありません。海外旅行中に観光地で似顔絵描きに遭遇することも少なくありません。特に、フランスはパリのモンマルトルにあるテルトル広場にも似顔絵描きが大勢います。
 ただ、「無名の画家」たちが似顔絵を描いて観光客を楽しませている、この「芸術の都パリ」の似顔絵描きは、私達が考える「似顔絵師」とは少し違うと思うのです。 
 私は、モンマルトルの似顔絵師を低く評価するつもりはありませんが、ただ、日本の似顔絵師の作品とセンスを観ていると、日本文化の血が流れていて、これら世界の「似顔絵描き」とは何処かが違うと思えるのです。いや、日本の似顔絵師は、浮世絵の伝統文化の流れを汲む、芸術家でありたいと思うのかもしれません。
 今後、私達は似顔絵に関する啓蒙・啓発・教育・育成事業を行い、日本に脈々と息づく似顔絵文化の再興を目指していこうと考えているのです。
 そのためには、似顔絵師が時間と場所に拘束されない「自宅やアトリエで芸術的、かつクオリティの高い作品創り」を行うことが必要であり、同時に作品の評価に相応な経済的条件で流通させる仕組みを作ることが必要だと考えます。
 その具体的な方策として、私は、この似顔絵師協会は著作権の管理事業を行うとともに、後述する有名人の肖像の描画の許諾、すなわち有名人の持つパブリシティ権の使用許諾の申請業務を行っていくことを提案しています。
 ところで、パブリシティ権とは、法律上明文の規定はありませんが、判例上で「著名人がその氏名、肖像その他の顧客吸引力のある個人識別情報の有する経済的利益ないし価値(パブリシティ価値)を排他的に支配する権利」と定義され、法的に保護すべきものとされています。つまり、著名人の氏名・肖像は、コマーシャルに利用することなどにより商品の販売を促進する力を有しており、これを第三者が無断で使用することはできないとされているのです。
 いずれにしても、著名人の写真や肖像画を無断で使用したり、あるいは商品化して販売したり、無料であっても譲渡したりすることはパブリシティ権の侵害となり、損害賠償請求や差止請求を受ける可能性があります。
 似顔絵についても、個人的に描いたり、楽しむのだけであれば問題はありませんが、それを印刷物やホームページ、その他の媒体に使用したり、配布したり、譲渡、販売する場合には本人の承諾を得る必要があります。
 そこで、前述したように、著名人と個別に折衝して似顔絵の制作、販売、商品化等の許諾を得、会員に許諾条件の下で似顔絵の制作をしていただくサービスを計画しているのです。 
 協会は希望する著作者と「管理信託契約」と「パブリシティ権の利用契約」を締結して、著作物の管理を行い、第三者への著作物の譲渡、売却、使用料徴収などを行っていきます。
 最後に、私達は似顔絵師の社会的な地位の向上を図りたいと考えています。現在似顔絵師の社会的地位は決して高いとはいえません。これは、大勢の似顔絵師が存在しているにも拘わらず、似顔絵師には社会的な活動や発言をする組織が無く、自らの活動や存在意義を主張する機会がないことに一因があるのではないかと考えています。
 この一般財団法人日本似顔絵師協会の設立は、会員相互の交流を図り、似顔絵の経済的な価値を創造し、似顔絵師の社会的評価の向上を図ることによって、日本の似顔絵文化の振興にも必ずや寄与するものと確信しております。